『子どもたちに届けたいのは、身体を動かすって楽しい、という発見。』佐藤 弘道 × 大友 克之

身体を動かしてきた経験が、いま歩く道につながっている
大友 佐藤弘道さんというお名前とともに、「ひろみちおにいさん」としても日本中に定着していますね。
佐藤 NHKの「おかあさんといっしょ」で12 年間、体操のおにいさんとして多くの子どもたちといっしょに身体を動かしてきました。
大友 この番組で佐藤さんを見て育った子どもたちが大勢いると思いますが、ご自身のスポーツとの出会いはどんな形だったのですか。
佐藤 私が通っていた幼稚園は年長になると男の子は柔道が必修でした。これが楽しくて、身体を動かす魅力にとりつかれました。小学生になっても自宅近くにあった警察署の道場で柔道を続けながら、体操教室と水泳教室にも通いました。
大友 いまの姿につながるきっかけが見え始めましたね。
佐藤 本格的に体操を始めたのは高校に入学してからです。器械体操部に入り、厳しい練習に明け暮れました。しかし、1年生の9月、練習中に頭から落下して頸椎亜脱臼となり手術、3ヵ月間の入院を余儀なくされました。
大友 それは選手生命を左右しかねない大けがです。
佐藤 ここで終わりたくないと思って何とか復帰しましたが、選手としての将来ではなく、小さな頃から漠然と思い描いていた体育の先生、指導者という道を考えるようになりました。
大友 それでも大学では体操部に所属していたとお聞きしました。
佐藤 体操選手としての道は断念しましたが、身体を使って何かを伝える仕事をしたいという思いは逆に強くなりました。私の専門分野である「体操」は、吊り輪や鉄棒などの「器械体操」とは違い、組み体操やマスゲームのように団体で演技発表を行います。自分たちで振り付けを考えて演技をするのですが、このときの経験が後で大いに役立つこととなります。
		
子どもたちと共通言語を持つ
そのための「引き出し」を
大友 子どもたちと体操を通してふれあうのは、「おかあさんといっしょ」への出演が初めてだったのですか。
佐藤 全く未経験で飛び込みました。大学卒業後はプールの指導員やスポーツクラブのインストラクターなどをしていたのでコミュニケーションスキルには自信がありました。しかし、それは子どもたちには全く通じませんでした。収録に参加したすべての子どもたちと心を通わせ、私の言葉や身体の動きに合わせて楽しんでもらうためにはどうすればいいのか。ある意味でゼロからのスタートでした。
大友 子どもたちと共通の言葉や話題を持つことは、彼らの心を開く大切なきっかけになります。収録の度に新たな子どもと接し、一人ひとりと信頼関係を築くには大変な努力があったと思います。
佐藤 子どもは大人以上に個性豊かですので、子どもたちの関心を引くには自分の「引き出し」を増やすことです。たとえば子どもたちの会話の中にその鍵はあります。男の子ならばヒーローものだったり女の子だったらキティちゃんだったり。共通言語を持ち、目線を合わせることが重要です。そのために幼稚園など、子どもが大勢いる現場にも出かけたりしました。
大友 佐藤さんには、2012年に開催された「ぎふ清流国体」の大会ソングに合わせた「ミナモ体操」の振り付けをしていただきました。体操の普及のためにキャラバンも実施し、県内のあちこちに出向いて子どもたちといっしょに身体を動かしましたね。
佐藤 このときと同じように、いまも全国各地に出かけて子どもたちと接していますが、やはり毎回45名の子どもたちと、年間約220回の収録をこなし、これを12 年間続けてきた「おかあさんといっしょ」の経験が私の宝です。御存知のようにあの番組は舞台と客席のあいだに壁がないんですよ。
運動を続けるためには、楽しさを知ることが近道になる。
大友 体操を通して身体を動かす魅力を伝えている佐藤さんから見て、いま子どもたちに必要なことは何だと思いますか。
佐藤 身体を動かすことは楽しい!と感じることだと思います。高い跳び箱を跳ぶため、鉄棒で逆上がりができるようになるため、というようにスキルアップをめざすだけが運動の目的ではありません。私の場合、むしろ技術の向上は二の次で、子どもたちにはまず跳び箱を使って遊ぶ楽しさを伝えます。すると、そのうち跳びたくなり、やがては高い跳び箱が跳べるように自分自身で練習をし始めます。
大友 言われてやるのではなく、自発的な取り組みは、長く続けることにもつながりますね。
佐藤 体操だけではなく、身体を動かす楽しさを子どもたちに知ってもらい、その中から続けたいことを見つけるきっかけづくりができたらすばらしいと思っています。
大友 いまスポーツの果たす役割が変わってきています。技術を磨き、記録を伸ばすだけではなく、健康になるため、仲間をつくるためというように目的が多様化しています。そしていわゆるスポーツをするだけでなく、観る、そして支える、と。参加の仕方も広がっています。そうした時代に、スポーツや健康学を学ぼうとしている若い世代に佐藤さんはどんなメッセージを投げかけますか。
佐藤 私は弘前大学で2年間、研究生として健康の基本を学びました。そして、弘前大学大学院医学研究科では健常な子どもと母親のデータを採取し、親子体操について研究し医学博士号を取得しました。その経験から、やはり学び続けることの大事さを伝えたいと思います。若い皆さんは、これからもさまざまなスポーツ現場を経験すると思いますが、それぞれのフィールドでの活躍を期待しています。
大友 佐藤さんには朝日大学の客員教授への就任をお願いしました。
佐藤 そうですね。これからは朝日大学での学びも応援していきます。
大友 よろしくお願いします。今日はありがとうございました。
佐藤 ありがとうございました。
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